東京都青梅市の印鑑・はんこ専門店
2022.10.31
その他こんにちは。印章彫刻技能士Hです。
久しぶりに、前回に引き続き、今回も私が見聞きした、ハンコに関わる大小さまざまな事件を記録しながら、ハンコの重要性を皆さんにお伝えしたいと思います。
(これはあくまでもフィクションであり、実在する個人や団体あるいは事案とは関係ありません。)
今回のお話は「キャンセルされた角印」です。
九州のある県からメールで公印(角印)のご注文をいただきました。
公印とは、官庁が公文書に認印として押す印です。例えば印章彫刻技能士の合格証に押されている小池百合子都知事の印もその一つです。四角い印を角印と呼びます。
九州からのご注文と聞いて、ついに当店も全国区になったのか!との喜んだのもつかの間。それが事件の始まりでした。
メールの発信者は○○県職員を名乗る川本太郎(仮名)さんでした。
『 T印店様
お世話になります。
当方、○○県職員をしております。 この度、管理用の角印を新調することとなりました。
下記の通り注文します。
よろしくお願いいたします。
-注文内容
柘植の角印(24mm×24mm)
添付の画像データの通りにお願いします。
-発注者(配送先)
〇〇県○○市○○町123
川本太郎
-支払い方法
銀行振込を希望します。
川本太郎 』
メールに添付されていた画像を見てみると、「○○県知事印」という角印でした。
少し冷静になって考えてみました。
・一般職員が個人メールアドレスを使って県知事の印を発注するだろうか?
・できたハンコを個人の住所宛てに送付するのは不自然ではないか?
・県庁なら地元のはんこ屋さんに発注するはずなのに、わざわざ遠くのはんこ屋に頼むだろうか?
考えてみると疑問がわき、念のため本人へメールで確認してみました。
『川本太郎様
この度はご注文頂きありがとうございます。
制作の前に確認したいことがございます。
県知事の印鑑を作成されることについて、念のため県庁に確認を取りたいと思いますが、構わないでしょうか。』
すると、すぐに返信メールが送られてきました。
『 T印店様
すいません、社内では検討段階とのことでしたので発注依頼はストップとなりました。
発注ではなく、問い合わせまででストップとなりました。
またの機会があればよろしくお願いいたします。
川本太郎 』
「あれ?」これは変だ。私の疑念は深まりました。
確認したいと言ったとたんにキャンセルになりました。まるで確認て欲しくないかのようです。
とにかく、確認してよかった。注文を受けましたが、制作する前にキャンセルされましたので当店に経済的被害はありませんでした。そのまま何もしないという選択肢もありましたが、大きな事件が隠れている可能性が頭をよぎり、見て見ぬふりをすることができませんでした。
「ハインリッヒの法則」というのをご存じでしょうか。1つの重大事故が起きる前には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常がある、というものです。
(詳しくはウィキペディアで)
そこで、その県庁に対してメールを出すことにしました。本当にその部署で注文した事実があったのであればそれで良し、ウソの注文であれば何らかの反応があるに違いありません。
『初めまして。
T印店のHと申します。
今回、貴部署の川本太郎様から「〇〇県知事印」の角印のご注文を頂きました。
内容が県知事印であるため、念のため県庁に確認したい旨を川本様にご連絡したところ、注文をキャンセルするというメールが来ました。
今まで御縁のなかった当店にご注文頂けることはありがたいことですが、キャンセルとなり当店としては残念でした。
また、ご入用の際にはぜひとも当店をご用命くださるようにお願いいたします。』
翌日の朝、川本様の上司から当店に電話が入りました。どのような経緯で注文、キャンセルに至ったのか詳しい内容を知りたい。やり取りした内容が分かるメールを転送してもらうことは可能か、との内容でした。それに対して、個人情報であるので、ご本人の承諾があればメールを開示いたしますと回答しました。
これで、上司の許可なく、独断で発注したのだと分かりました。なぜ、そんなことをしたのかは不明です。
そのすぐ後に、川本様本人から電話がありました。メールは開示しないで欲しい、注文したのではなく問い合わせしただけということにしてほしい、との内容でした。私は電話口で、これ以上問題が大きくなる前に上司に包み隠さず報告して謝罪することを強くお勧めしました。そして電話を切ってから、同じ内容のメールを改めて川本様本人に送りました。しばらくして、またご本人から電話がありました。そこで、今ならまだ間に合うので謝罪することを改めてお勧めした結果、メールの開示について承諾してくださいました。
すぐに上司宛に、川本様とやり取りしたメールをお送りし、当店は何も被害が無かったので穏便に解決されることを希望する旨を添えました。
少したって、上司からメールが来ました。メール履歴内容に関して川本様本人の確認が取れたこと、川本様が当店とのやり取りを通して上司に正直に話し謝罪する決心ができたこと、大事になることなく本日を迎えることができたことを感謝する内容でした。
話はこれで終わりです。これ以上大きな問題になることを防げたという点では良かったと思います。
罪を憎んで人を憎まずがモットーです。しかし、川本様はなぜこのような発注をしたのか、もし角印を渡していたらどうなっていただろうか、川本様にはどのような処分が下されたのだろうかなど、いろいろと気になることがあります。それでも、当店としてはこれ以上深入りすることは避けました。
人間は弱いものです。小さなミスは誰にでもあります。しかし小さなミスを隠そうとして大きなウソをついてしまえば、後に引けなくなって、そのために自分の首を絞めることがあります。小さなうちにその芽を摘み取ることが何よりも大切です。自分で気が付いて、すぐにそれを正す勇気があればよいのですが、そうでない場合は、気が付いて忠告してくれる人が周囲にいるかどうかがカギになります。
もし、注文された角印を作ってお渡ししていたなら、有印公文書偽造などの何か大きな事件になっていたかもしれません。
「有印公文書偽造」の刑事罰は、1年以上10年以下の懲役です(刑法155条1項)。公文書偽造の罪は「無印」と「有印」があります。「無印」では罰金刑がありますが、「有印」にはないので「有印公文書偽造」の有罪であれば、すぐに懲役刑となります。「有印」の方が重い刑罰が定められています。また「私文書偽造」よりも「公文書偽造」が重い刑罰となります。
ハンコを作る立場の者として責任を改めて感じました。
以上、印章彫刻技能士Hでした。
※これはフィクションです。実在する個人や団体あるいは事案とは関係ありません。
当店(竹田印店)では、官庁や学校・保育園、一般企業、個人様から、代表印(実印・銀行印)や角印、ゴム印のご注文を多数頂いております。御朱印の制作・修復のご注文も頂いております。
また、黄綬褒章を受章された現代の名工、間宮寿石先生の手彫りによる実印、角印、落款印も承っております。『武蔵御嶽神社ご祈祷印』や『梅の小枝印』も間宮先生の手彫りです。
かわいい『こけしはんこ』もあります。
ご希望の大きさと印材の種類、文字の内容をご連絡いただければお見積もりいたします。ご相談に応じますので、お気軽にお問い合わせください。
もちろん当店では偽造や複製は致しません(「この印影と同じハンコを作れますか?」)。
実印・銀行印・角印・落款印・ゴム印・住所印などに関するお問い合せは、 ホームページの「お問い合わせ」、または電話(0428-22-4461)でお気軽にどうぞ。