東京都青梅市の印鑑・はんこ専門店

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2022.06.14

その他

【技能士の事件ノート】「遺言書」の印

こんにちは。印章彫刻技能士Hです。
前回に引き続き、今回も私が見聞きした、ハンコに関わる大小さまざまな事件を記録しながら、ハンコの重要性を皆さんにお伝えしたいと思います。
(これはあくまでもフィクションであり、実在する個人や団体あるいは事案とは関係ありません。またテレビ朝日系『家政婦は見た!』とは関係ありません。)

今回のお話は「遺言書の印」です。

皆さんは「遺言書」を書いたことはありますか? ほとんどの方はないでしょう。テレビのサスペンスドラマや刑事ドラマにはよく出てきますね。遺言書には法律で決められたルールがあります。このルールに従っていないと遺言書は無効とされます。そこでドラマが生まれてくるわけです。

(豆知識)
遺言書には「公正証書遺言書」「自筆証書遺言書」「秘密証書遺言書」の3種類あります。今回の話に出てくるのは自筆証書遺言書です。自筆証書遺言書が法的に有効となるためには3つの条件が必要です。①全文を自筆で書くこと、②日付を明記すること、③自筆署名と押印があること、この3点です。押印は本人のものであるという証明の為なので実印であることが望ましいのですが、民法第968条には ”印を押さなければならない” と書かれているだけなので、三文判でも何でも押してあればよいのです。ただし本人以外の人が本人のハンコを使って押したことが明らかな場合は、遺言書が無効になる可能性があります。それだけでなく有印私文書偽造の罪に問われるかもしれません。

梅雨が近づいてきた6月のある日のことです。T印店の印章彫刻技能士Hのところへ1通のメールが届きました。
『この遺言書に捺印された印影は何と読めばよいのでしょうか。「石崎秋子」の印影で間違いないでしょうか。遺品のどこにも印自体が見当らず困っています。』

遺言書には『 遺言書 今までの遺言はすべて撤回します。私に万が一のことがあれば、私の財産はすべて法律に従って分配してください。令和〇〇年〇月〇日 石崎秋子 [印影] 』と書かれていました。

この印影が通常の文字ではなく、何と書いてあるのか全く読めませんでした。「石崎秋子」でも「石崎」でも「秋子」でもなく判読不能でした。本当に本人が押したハンコなのか疑問が生じます。すると遺言書の有効性が疑われます。そこで困った弁護士が、技能士にこの印影の判読を依頼したのです。

技能士Hは、早速、鑑定調査を開始しました。印影には、縦・横・斜めのたくさんの線が刻まれていましたが、一つとして文字だと識別することができませんでした。上下の方向も分かりません。そこで、文字が書かれているとすれば、どこからどこまでが一文字で境界線はどこなのか。線の一本一本について文字の一部である可能性を検討しました。そしてハンコの書体として一般的な「篆書体」「隷書体」「古印体」「楷書体」「印相体」の書体とも見比べてみました。しかし、どの書体も一致するものはありませんでした。本人が逆さまや傾けて押した可能性も考えて、印影を回転させてみても、文字として読むことができません。さらにはハンコ職人ではなく一般人が作ったと仮定すると左右逆の鏡文字にするのを忘れて彫った可能性もありますが、印影を左右反転させてみても結果は変わりませんでした。

そこで鑑定士Hはこれまでの調査結果をまとめて、この印影を石崎秋子のどの文字とも判読することはできない、と報告書を提出しました。

弁護士は報告書を受け取り、この遺言書の有効性を決定することはできないものかと、さらに調査を行いました。そこに故人が親しくしていた友人から、故人から生前に送られた手紙に遺言書と同じ印影が押されているとの知らせがありました。ハンコが判読できなくても、故人のものであることが証明されれば、遺言書は故人が押印したものと推定することができ、法的に有効となります。早速、弁護士は、技能士Hに手紙の印影と遺言書の印影が同一のハンコによるものであるという鑑定を再度依頼し、その報告書を家庭裁判所に提出しました。

ここでのポイントは、自筆証書遺言書の印は自分が書いたことの証明として必ず押さなければいけないという事です。最高裁判所は次のように述べています。

自筆証書遺言の方式として自書のほか押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の 自書とあいまつて遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによつて文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解される(最判平元・2・16判時1306・3)

日本では重要な文書には「押印」をするのが慣行または法意識だ、と最高裁が認めているのです。これは遺言書に限った話ではありません。押印は私たちの日常生活で常に発生しています。

これを読まれている皆さん。トラブルを避けるために重要な書類には「実印」を押しましょう。そして、その「実印」は出来合いの三文判ではなく、信頼のおける印章店に依頼して作りましょう。

以上、印章彫刻技能士Hでした。

※これはフィクションです。実在する個人や団体あるいは事案とは関係ありません。

当店でも、印影の真偽判断を行い、裁判の証拠資料となる鑑定結果報告書を作成いたします。企業様や弁護士様からのご依頼も承ります。ご相談に応じますので、お気軽にお問い合わせください。

あなたも竹田印店でハンコを作りませんか。お客様のご要望に応じて、最高級の象牙からお手頃な木製品まで各種印材を取り揃えております(特別国際種事業者番号:04149)。当店の印章彫刻技能士が手仕上げで制作します。
また当店オリジナルの「武蔵御嶽神社のご祈祷印」は完全手彫りのため偽造されにくいハンコです。

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