東京都青梅市の印鑑・はんこ専門店

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2023.01.05

その他

【技能士の事件ノート】死人に口なし、実印あり

こんにちは。印章彫刻技能士Hです。
前回前々回に引き続き、今回も私が見聞きした、ハンコに関わる大小さまざまな事件を記録しながら、ハンコの重要性を皆さんにお伝えしたいと思います。
(これはあくまでもフィクションであり、実在する個人や団体あるいは事案とは関係ありません。)

今回のお話は「死人に口なし、実印あり」です。

市内の資産家のご当主から次のようなご相談がありました。
先代が無くなられてから1年が経ち、ようやく落ち着いてきた時のことです。ある取引先から当主宛てに一通の手紙が届きました。

『この度は先代がお亡くなりになり、心よりお悔やみ申し上げます。さて、この度先代とのお約束を果たしていただきたくご当主にお手紙を差し上げます。同封の書類をご覧いただき、適切なるご対応を頂けますようによろしくお願い申し上げます。』

画像はイメージです(以下同様)

同封された書類は1000万円の借用書でした。先代が取引先から5年前に借金をして、5年後に全額返済する約束になっている。期限が来たので全額返済して欲しいというのです。法的には先代から相続した当主が返済の責任を負うことになります。

借用書には、実印が捺されていました。捺されている印影を確認したところ、それは正真正銘、先代が使用していた実印でした。しかし、ここで思いもよらない言葉を当主から聞きます。
実は、先代が亡くなったのちに、先代が使っていた実印をそのまま自分の印鑑として使っている』というのです。正直言って驚きました。ご当主の話を聞いてみると、先代の思い出を大切にしたいという気持ちで実印をそのまま使っているという事でした。

役所に死亡届を提出すると、自動的に印鑑登録は抹消され故人の実印は効力を失います。もし苗字だけの実印であれば、故人が使っていた実印を別の家族が使用することも可能です。しかし、これは絶対にやめたほうが良いです。

今回のケースでは、当人は故人となりましたが実印が押されている借用書は法的にはかなりの確率で有効と判断されます。“本物の実印”が押されているからです。そうなるとご当主には1000万円を返済する義務が生じます。死人に口なし、実印ありです。

実印が本物であるという事だけは分かりました。しかし、この借用書が本当に先代のものなのか、これ以上は私にはわかりませんでした。もしかすると偽造されたものかもしれません。悪意のある人が実印を盗み出し、偽造した借用書に捺印したあと、知られずにもとに戻すことができたら、限りなく本物に近い偽造が可能です。特に実印は頻繁に使うことがないので盗まれても気が付かない場合があります。実印が盗まれたことが証明できない限り、偽造であると反論するのは困難でしょう。

このように、借用書以外にも、不動産の権利譲渡、婚外子の認知など、実印があればいくらでも偽造が可能です。もし、あなたがそのような書類を見せられたらどうしますか? 実印は個人が特定されるという意味では指紋と同じです。殺人現場に指紋があれば犯人にされてしまいます。

これが故人の実印をそのまま使用してはいけない理由です。法律としては許容されるとしても、現実的には重大なリスクがあるということです。

故人の実印をそのまま使用してはいけないとすると、どうしたら良いのでしょうか。
別の記事でも言及していますが、古い印章を別の名前に彫り直すことができます。故人の思い出を大切にしながら実印として安心してお使い頂くことができます。または故人の実印を使わずに保管する場合にも、そのまま保管せずに、できれば印面の一部を欠けさせて保管するのが安全です。

当店では常々、実印は一人ひとり異なるものをお作りくださいとお話ししています。個人を特定する意味で、できる限り姓と名をフルネームで彫ったものが望ましいでしょう。

実印として既製品の三文判を使っている場合がありますが、本当は一人ずつ固有の実印を持つべきなのです。印章彫刻技能士が彫っている印章店で作られたほうが安心です。書体は偽造されにくい「篆書体」または「八方体」がお勧めです。「印章・はんこについて(書体)」

以上、印章彫刻技能士Hでした。

※参考:印鑑登録は各市町村の条例によって規定されるものなので、認定基準は市町村ごとに異なる場合があります。詳しくは、各市町村役場にお問い合わせください。「実印の基礎知識

※これはフィクションです。実在する個人や団体あるいは事案とは関係ありません。

当店(竹田印店)では、印章彫刻技能士が実印を自店内で彫っています(一部商品を除く)。かわいい『こけしはんこ』もあります。

また、黄綬褒章を受章された現代の名工、間宮寿石先生の手彫りによる実印、『武蔵御嶽神社ご祈祷印』や『梅の小枝印』も扱っております。

実印の印材もご予算に応じて各種取り揃えております。「印章・はんこについて(印材)」

実印・銀行印・角印・落款印・ゴム印・住所印などに関するお問い合せは、 ホームページの「お問い合わせ」、または電話(0428-22-4461)でお気軽にどうぞ。