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2025.10.28

その他

中国に逆輸入された漢語

漢字は中国から伝来した文字というのは日本人の常識です。

漢字の伝来

『日本書紀』によると、5世紀ごろに百済(現在の韓国南西部)から王仁(わに)という学者が招かれ、『論語』『千字文』を伝えたとされています。これは漢字が公式に日本に伝来した最初期の記録です。しかし『千字文』は6世紀に成立したので、いまだ成立していない『千字文』が日本に渡来するはずはないとの反論もあります。

その後、漢字は仏教の伝来とともに日本に伝えられました。仏教の経典(お経)はすべて漢字で書かれた漢文です。そのため、仏教が朝鮮半島を経て日本に伝わる際、同時に漢字の読み書きの知識や文書文化も伝わりました。

仏教伝来ルート地図より

日本で作り出された漢字「国字」については、こちらをご覧ください。                

日本生まれの漢語

文字としての漢字とは別に、2個以上の漢字を使った熟語を「漢語」といいます。漢語も中国で発生しましたが、日本で独自の漢語が生まれ、それが中国語に逆輸入されていった歴史を知る人は意外と少ないでしょう。

たとえば「科学」、「哲学」、「文化」、「時間」、「経済」、「革命」、「銀行」などはすべて日本で新しくつくられた”和製漢語”で、これらは中国に逆輸入されています。なんと中国の国名「中華人民共和国」に使われている「人民」「共和国」も、日本から逆輸入されたものです。元から中国語なのは「中華」のみです。(参考:おとなライフ「実は中国語に導入された日本語がこんなにあるって知ってた?」

つまり中国で使われている一部の漢語のルーツは日本にあります。

「共産党 幹部 指導 社会主義 市場 経済」 という文は、すべて”和製漢語”でできているといったら、こ れらの単語をさかんに使っている普通の中国人は信じかねるだろうし、これらの単語の原産地の日本人も、たぶん半信半疑でしょう。しかし、それは事実です。」(参考:「中国語の中の日本語」 陳 生保

近代化に貢献した和製漢語

長い歴史の中で、日本独自の”和製漢語”が数多く作られてきました。江戸時代に西洋から輸入された書物を日本語に翻訳する作業が行われたり、明治維新後の急速な西洋化によって、国の制度や思想、法律、学術用語などを表現する英語が次々と日本語化されていきました。これらの”和製漢語”が日本の近代化に大きく貢献しました。(参考:おとなライフ「実は中国語に導入された日本語がこんなにあるって知ってた?」

幕末の頃、杉田玄白の『解体新書』など蘭学者たちは、西洋の医学書を翻訳する際に多くの”和製漢語”が作られました。
そして、福沢諭吉の『学問のすゝめ』などで、西洋の思想を広める中で「自由」「権利」「演説」などの”和製漢語”を作り、普及させました。
その後、中村正直や西周(にしあまね)などの啓蒙思想家が、哲学や社会科学の概念を翻訳するために尽力しました。法律、政治、経済などの分野では、政府関係者や翻訳家が専門用語を多数生み出しました。

「解体新書」
「学問のすゝめ」

”和製漢語”が中国で使用されるきっかけになったのは、1894年(明治27年)に日清戦争に敗北した清(中国)が、素早く近代化を遂げた日本に学ぼうと、数千人もの留学生を日本に派遣したことです。清の留学生は積極的に日本の書物を中国語に翻訳していきました。(参考:おとなライフ「実は中国語に導入された日本語がこんなにあるって知ってた?」

和製漢語の優位性

中国人が独自に翻訳した単語もありましたが、結果的に”和製漢語”のほうが広まったのです。たとえば「電話」は日本人が製造した単語で、英文のtelephoneを意訳したものです。20世紀の初年、日本にいる中国人留学生の一群が、連名で長い手紙を書いており、その中で詳細に日本の近代化の状況を紹介していました。魯迅もそこに名を連ねています。手紙の中で「電話」について次のように述べています。「電気をもって言語を伝達することを、中国人は『徳律風』と訳しているが、『電話』の簡潔さには及ばない」。ここに、日本語が中国に輸入される経緯の一端を見ることができます。(参考:「現代中国語の中の日本語「外来語」問題」王彬彬))

現在の中国では漢字に「簡体字」を使うことが多く、例えば日本語の「電話」は、中国では「电话」と表記されます。しかし意味は同じです。

日本人は外国語の発音ではなく、漢字の意味から二文字を組み合わせ、さらに中国語の法則に従って翻訳しました。そのため、中国人が見ても何となく意味がわかり違和感もありませんでした。たとえば「投票」は日本語で“票を投じる”という意味なので「票投」としてもよさそうですが、中国語の法則どおりに「投票」と翻訳したのです。当時の中国人留学生にはない自由な発想で日本人が翻訳した漢字は、何となく新鮮でカッコいいものに映ったのでしょう。(参考:おとなライフ「実は中国語に導入された日本語がこんなにあるって知ってた?」

中国文化の中に根付いていた抽象名詞は、日本に移植された後、日本文化の中に根を下ろして成長し、必然的に漢語の原意とある程度分離を生じることとなりました。たとえば「経済」という言葉は、古い漢語の中では「経世済俗」「治国平天下」(世の中を治め、人民の苦しみを救うこと)を指すが、日本に伝わった後には意味が狭まり、もっぱら財務経営・財政措置を指す言葉として使われています。(参考:「現代中国語の中の日本語「外来語」問題」王彬彬

中国語になった和製漢語の例

ある中国人研究者はこう言っています。「現代中国語の中の”和製漢語”は、驚くほどの数があります。統計によれば、中国国民が現在使用している社会・人文科学方面の名詞・用語において、実に70%が日本から輸入したものです。これらはみな、日本人が西洋の相応する語句を翻訳したもので、中国に伝来後、中国語の中にしっかりと根を下ろしたのです。中国人は毎日、東洋のやり方で西洋の概念を論じ、考え、話していますが、その大部分が日本人によってもたらされたものなのです。」「わたしたちが使用している西洋の概念について、基本的には日本人がわたしたちに替わって翻訳したものであり、中国と西洋の間には、永遠に日本というものが挟まっているのです。」(参考:「現代中国語の中の日本語「外来語」問題」王彬彬

「近代中国語(特に学術語)」の中で、専門分野によっては7割近くが和製漢語と言われますが、日常会話の中国語は古来の語彙が中心で、日本語由来語は全体では10〜20%程度と言われています。

Wiktionary 和製漢語には、日本語と同じ意味で中国語になった386語の”和製漢語”が掲載されています。その中からいくつかをご紹介しましょう。

亜鉛/暗示

意識/遺伝/意訳/入口

右翼/運動

栄養/演出/演説/遠足/鉛筆

大犬座/大熊座/温度

階級/会計/解決/概算/回収/会談/改訂/概念/海抜/解放/概略/会話/化学/科学/拡散/学士/革命/歌劇/学会/化石/活躍/仮定/化膿/河馬(かば)/環境/関係/間欠泉/間接/幹線/寒帯/簡単/観点/観念論/幹部

議員/議院/議会/機関/企業/喜劇/記号/気質/基準/擬人法/規則/基地/帰納/規範/義務/逆襲/客観/教育学/協会/教科書/共産主義/共産党/協定/業務/共鳴/教養/恐竜/共和/共和国/巨星/記録/規律/金額/銀行/金婚式/銀婚式/緊張/金牌/銀幕/金融

空間/偶然/組合/軍国主義

計画/契機/景気/経験/軽工業/経済/経済学/経済恐慌/警察/形而上学/芸術/系統/経費/劇場/化粧品/下水道/決算/権威/現役/現金/権限/健康/原作/堅持/原子/現実/現象/元素/原則/建築/原理

小犬座/講演/効果/交換/抗議/工業/広告/講座/交際/講師/光線/酵素/交通/肯定/公認/光年/公民/高利貸/公立/小型/国際/国税/克服/小熊座/故障/固体/国教/固定

「自由」「民主」「人権」

これらの言葉は、日本と中国では発音が異なりますが、同じ意味で使用しているので、文字で書いたものをお互いに理解することができるという、漢字文化圏の不思議なメリットがあります。
この様に言語は、民族の交流によってお互いに影響を与え合って変化していくものです。それによって世界中の人々が相互に理解し合うことが出来るようになると良いですね。
中国や世界の国々にも「自由」「民主」「人権」の言葉が根付いていくことを心から願います。

注記:各文献から引用した文章に対して、日本で作られた漢字熟語を表すことばをすべて”和製漢語”に統一して置き換えています。また、文章の統一性をはかるために言葉遣いを一部修正しています。